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最新宇宙論入門:『宇宙は本当にひとつなのか』

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『宇宙は本当にひとつなのか』ブルーバックス

著者:村山斉

 

最新宇宙論のエッセンスが盛り込まれた本

暗黒物質、暗黒エネルギー、宇宙の大規模構造、多次元宇宙、異次元。実験や観測から次々と生まれる謎を解くと、解いた謎より多くの謎が行く手を阻む。ついには「宇宙はひとつしかない」という信念さえも疑わしくなる。人類に残された多くの“宿題”を紹介してくれます。

 

本書の概要

本書は8章からなります。

 

 第1章:私たちの知っている宇宙

恒星を構成する物質の観測方法と銀河の回転速度の観測方法が書かれています。観測結果から暗黒物質の存在が存在していることがわかります。

 

 第2章:宇宙は暗黒物質に満ちている

重力レンズ効果の説明がなされ、これの観測によっても暗黒物質を観測的に観測できることがわかります。

 

第3章:宇宙の大規模構造

宇宙背景放射とそこからわかる宇宙の大規模構造の話です。

 

第4章:暗黒物質の正体を探る

暗黒物質の候補としてアクシオンニュートラリーノが紹介されます。

 

第5章:宇宙の運命

宇宙の加速膨張から暗黒エネルギーの存在が予想され、これが宇宙の運命を左右すると考えられています。

 

第6章:多次元宇宙

統一理論の完成のため、4次元以上の多次元宇宙が考えられました。

 

第7章:異次元の存在

異次元を観測する実験が紹介されます。

 

第8章:宇宙は本当にひとつなのか

宇宙が枝分かれするという多世界解釈を説明します。超弦理論の紹介もあります。

 

多世界解釈

本書で紹介されている物理現象の中で、最も受け入れがたいものはおそらく多世界解釈でしょう。この仮説が提唱されるきっかけとなったのは、二重スリット実験だそうです。かなり有名な実験で2002年に「最も美しい実験」に選ばれ多ことでも知られています。

 

ある電子が波動として、他のある波動としての電子と干渉した、ということなら話はわかりやすいです。しかし、二重スリット実験では電子は一つずつしか登場しません。

 

一つの電子は、二つのスリットのうち一方を通ってスクリーンに当たるはずです。にもかかわらず、スクリーンに干渉縞が現れるということは、右のスリットを通った電子と左のスリットを通った電子とがあることを意味しているように思えます。

 

このような、あまりにも不可解な実験結果を説明するには、多世界解釈のような不可解な仮説が必要になるのですね。他の解釈としてはコペンハーゲン解釈があり、こちらの方がメジャーですが、波動関数の収縮がどのような原理でいつ起こるかということが説明されないため、かの有名な「シュレディンガーの猫」のような問題を解決できず、不完全であるようです。

 

まとめ

少し前に読んだ本ですが、印象的だったので再度読んでみました。

 

最新の宇宙論を対象としているにもかかわらず、物理を本格的に学んでいない人でもその概要を理解できるように書かれた優れた本だと思います。暗黒物質、暗黒エネルギー、宇宙膨張といった物理現象の観測方法や観測結果からの推論方法、多次元宇宙や多元宇宙、超弦理論といった理論の概観やその予測、こういったものが本当に簡潔に述べられていて、著者の頭脳の明晰さを感じると共に、宇宙の謎の深遠さに触れられました。