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天才vs天才:『容疑者xの献身』

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容疑者xの献身』文春文庫

著者:東野圭吾

「ただ、あなたに幸せになってほしい」哀しいまでの献身

第134回直木賞受賞作。東野圭吾さんのガリレオシリーズは天才物理学者湯川学が難事件を科学的アプローチによって次々と解決していく人気シリーズで、ドラマ化もされています。今作はシリーズ最初の長篇作品で、2008年には映画化されたのでご存知の方も多いと思います。

 

映画版もおすすめ

僕はあまり映画は観ないのですが、この映画は見たことがあって、観たことがある映画の中でかなり好きな作品の一つです。福山雅治さんが演じる湯川教授がいつにも増して格好いいですし、堤真一さんは石神の人格が憑依したのかと思わせるような演技でした。

 

四色問題

本作では四色問題という数学の問題が登場します。四色問題四色定理)とは次のような問題です。

 

四色定理(よんしょくていり/ししょくていり、英: Four color theorem)とは、平面上のいかなる地図も、隣接する領域が異なる色になるように塗り分けるには4色あれば十分だという定理である。立体射影により平面を球面に写して、球面上の地図にしても同様に成立する。

出典:Wikipedia 

 

 物語のあらすじ

高校の数学教師をしている石神は、天才的な数学者でありながら不遇な日々を送っていました。人生に希望を失っていた時、隣の部屋に一人娘とともに引っ越してきた花岡靖子に密かに想いを寄せるようになります。

 

ある日二人が、執拗に追いかけてくる靖子の前夫を殺害してしまったことを知った石神は、二人を救うべく、その頭脳で完全犯罪を計画・実行します。

 

思惑通りにことが進む中、警察の相談を受け現れたのは石神の大学時代の親友、湯川でした。天才数学者と天才物理学者の対決の先に待っていたのは、愛にあふれる悲劇…。

 

親友に追い詰められる覚悟、親友を追い詰める覚悟

花岡靖子の前夫の殺害事件に石神が関係しているのではないか、そう感づいた湯川は石神にこう問いかけます。

 

「人に解けない問題を作るのと、その問題を解くのとでは、どちらが難しいか。ただし、解答は必ず存在する。どうだ、面白いと思わないか」

 

P≠NP問題に似た形のこの問題は、湯川が石神の企てたであろう完全犯罪に挑戦する覚悟を固めたことを暗示しているように思えます。誰も解けないはずの石神の“問題”が、湯川の関与によって綻びを見せ始め、崩壊への道をたどる、そんな予兆を示している気がします。

 

ちなみに、P≠NP問題(P≠NP予想)とは下のような問題です。

 

クラスPとは、決定性チューリング機械において、多項式時間で判定可能な問題のクラスであり、クラスは、Yesとなる証拠(Witnessという)が与えられたとき、多項式時間でWitnessの正当性の判定(これを検証という)が可能な問題のクラスである。多項式時間で判定可能な問題は、多項式時間で検証可能であるので、P⊆NPであることは明らかであるが、PがNPの真部分集合であるか否かについては明確ではない。証明はまだないが、多くの研究者はP≠NPだと信じている。そして、このクラスPとクラスNPが等しくないという予想を「P≠NP予想」という。

出典:Wikipedia

 

「問題を解くのと、問題の解答の正当性を判定するのとでは、どちらが難しいか」ということですね。

 

まとめ

「隣同士は同じ色にはなれない」。花岡親子と同じになることは決してできないとわかっているけれど、ただ隣にいるだけでいい。石神の思いに胸を締め付けられるようでした。本当に美しい作品でした。