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The Room of Requirement

必要な人が必要な時に必要なことを

懊悩の果ての死地:『青の炎』

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『青の炎』角川文庫

著者:貴志祐介

 

殺人というものを17歳の犯人の視点から見つめる

貴志祐介さんのミステリーで、Amazonのレビューが多く評価も高いので有名な人気作であるようですが、お気に入りの一冊なので改めて紹介させていただきます。僕は見たことはないのですが、2003年には監督蜷川幸雄さん、主演二宮和也さんで映画化されています。

 

物語のあらすじ

17歳の櫛森秀一は高校に通いながら、母・妹とともに三人で暮らしていました。平和に幸せな生活を送っていた中、突然家に押しかけてきたのは母の前夫の曾根でした。酒とギャンブルに溺れる曾根は秀一の家にとどまり続け、三人の金を浪費し母そして妹にまで手を出そうとしてしました。

 

警察も弁護士もこの問題を解決してくれないことを悟った秀一は、家族を守るために自らの手で曾根を「強制終了」する決意を固めます。秀一の心の中に現れた熱くて冷たい青の炎は大きく強く燃えさかり、敵を、味方を、そして自分自身をも…。

 

全てを変える‘事実’

家族想いの優しい高校生を孤独な殺人者に豹変させたのは、どこにも助けを求められない状況の中で、それでも母と妹を守らなければならないという思いでした。秀一は豊富な知識と明晰な頭脳を活かして、‘完全犯罪’を考案することに成功します。高校生なのに、いや、高校生だからこそなのか、責任感に突き動かされるがままに、秀一は遂に曾根の「強制終了」計画を実行しました。

 

警察の捜査の後、曾根の不審死は病死とされ、計画は成功裏に終わったかのように思われました。しかし、「一人の人間を殺害した」という確固たる事実は、秀一が知らないところで全てを変えてしまっていました。家族との生活、友人や思いを寄せる人との関係、そして何よりも秀一の心は、もう以前のあり方ではなくなってしまっていて、それを取り戻すことはできなくなっていました。

 

この事件を発端として、様々な出来事が秀一の思いもよらぬ形で次々と展開し、この物語の悲劇的な結末へと向かうことになることを考えると、たった一人で‘完全犯罪’の考案に成功し、計画通りに遂行するだけの頭脳・行動力・責任感を持ち合わせていたことは、秀一にとって不運なことだったように思われます。

 

この物語の最後の部分そして結末に感じる、哀感なのか虚無感のような感情は、僕の語彙ではうまく形容できませんが、読み終えた後はしばらく余韻に浸ってしまいます。

 

まとめ

この感想を書くためにもう一度読み直してみましたが、結末が分かっていても魅力を失わない物語でした。フィクションは多くは読んでいないのですが、これほど犯人に感情移入させ、犯人と喜怒哀楽をともにできる物語はあまりないのではないかと思います。以前感想を書いた『容疑者xの献身』に似ているポイントがいくつかあるので、そちらが好きな方はこの作品も気に入るかもしれません。