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真理を追究する6人の偉人:『知の逆転』

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『知の逆転』NHK出版新書

著者:ジャレド・ダイアモンドノーム・チョムスキーオリバー・サックスマービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン

 

どこまでも真実を追い求める巨人たち

生物学、言語学、神経学、コンピュータ科学、応用数学分子生物学の各分野の代表者として、専門分野にとどまらない分野横断の知性を駆使し、人類の先頭を切って真実に向かって走り続けている6人の巨人たちが吉成氏のインタビューに答えます。

 

本書の概要

第1章 文明の崩壊 ジャレド・ダイアモンド

専門の生理学や地理学に加え、考古学や人類学、鳥類学にも精通するオリバー・サックスは『銃・病原菌・鉄』の著者として有名です。

・『銃・病原菌・鉄』から『文明崩壊』へ

西欧の成功はいくつかの幸運な地理的条件の重なりの帰結であり、地理的要素は今後も重要な役割を果たしていくと考えられる。紛争をなくすためには国家間格差を小さくする必要がある。

・第三のチンパンジー

人類が遺伝的差異をほとんど持たないチンパンジーと異なる道を歩むことになった要因としては、直立歩行・脳の肥大化・言語の獲得などが考えられる。

・セックスはなぜ楽しいか?

セックスには、女が子育て期間中に男を引きつけておくための糊のような役割があるのではないかと考えられる。男はわずかな時間で遺伝子を残すチャンスを得られるから不倫をするのに対し、女は不幸な結婚を背景として新たな関係を求めて不倫をすると予想できる。

・宗教について、人生の意味について

宗教がもたらす恩恵として、第一に宗教は人々に強力な動機を与え強大な政治力となりうることがある。世界に様々な説明を与えるという観点で科学は宗教に取って代わることができる。人生は、ただ存在しているだけで意味というものは持ち合わせず、したがって「人生の意味」をとうことに意味はない。

・推薦図書

ヘンリー・デイビッド・ソロー『ウォールデンー森の生活』

トゥキディデスペロポネソス戦争史』

アルベルト・シュバイツァーヨハン・セバスチャン・バッハ

第2章 帝国主義の終わり ノーム・チョムスキー

ノーム・チョムスキーは、プラトンフロイト、聖書と並んで、最も引用回数の多い著者であり、「生きている人の中でおそらく最も重要な知識人」(ニューヨーク・タイムズ)と形容されます。

・資本主義の将来は?

金融部門を見ればわかるように、市場原理だけでは破綻は避けられない。政府の介入は不可避である。

・権力とプロパンガンダ

核兵器が存在する限り、いつか必ず核戦争が起きる。アメリカが考えているのは「核抑止」ではなく「核支配」である。非核武装地帯の実現を阻んでいるのはアメリカである。民主主義がその限界を露呈し始めているのは人類にとって大きな問題であるかもしれない。

・科学は宗教に変わりうるか

自分は無宗教であるが、宗教にはポジティブな面を持つものもある。何を信じるかは個人の自由である。科学は人生に対する問いを提供できていない。

・理想的な教育とは?

理想とする教育とは、子供達が持っている創造性と創作力をのばし、自由社会で昨日する市民となって、仕事や人生においても創造的で創作的であり、独立した存在になるよう手助けすることである。外から押し付けられる勉強、試験のための勉強などは無意味だ。

・言語が先か音楽が先か

音楽、数学的能力、アートなどは言語能力の副産物である可能性が高い。

第3章 柔らかな脳 オリバー・サックス

オリバー・サックスは脳神経科医として診療を行う傍、精力的に作家活動を行なっており、代表作には『妻を帽子とまちがえた男』などがある。

・音楽の力

人の神経系は音楽のビートに反応したり、音楽が認知症の人の記憶を呼び覚ましたり、音楽は人間に対して特別な力を持つ。

・人間に特有の能力について

「文法」や「読む能力」は人間に特有のものである。

第4章 なぜ福島にロボットを送れなかったか マービン・ミンスキー

マービン・ミンスキー人工知能分野の開拓者であり、アーサー・C・クラークの『2001年の宇宙の旅』映画版のアドバイザーとしてもよく知られている。

人工知能分野の「失われた30年」

数十年間、見栄えがいいロボットを作ることに専念し、リモコン操作でドアを開けるなどの子供でもできることをするロボットの開発がなされなかったのは残念である。現在コンピュータの知能を上げる研究はもっぱら統計的手法によるものだが、別の方法を探らなければならない。

・社会は集合知能へと向かうのか

集合の知能が個人の知能を上回ることがあるが、その逆の場合もある。科学の英知は、いつも個人知能によってもたらされた。

第5章 サイバー戦線異常あり トム・レイトン

トム・レイトンは数学者でありながら、自らの理論を引っさげてインターネット戦場に乗り込んでいき、設立した会社を年商10億ドルを超える会社に成長させました。

・インターネット社会のインフラを支える会社

将来的には全ての機器が携帯型に移行すると予想する。この場合、情報流通量の限界とサイバー犯罪が大問題になる。サイバー攻撃はより高度化し、組織化しており、戦争になればインターネットは最大の標的になる。

・大学の研究と企業の新たな関係

論理的に考え事実を突き詰める数学的訓練は、ビジネス上の決断を下すのに役立っている。アカマイ社はMITとの結びつきが強く、研究に重点を置いているため、ビジネス分野の頂上付近では向かうところ敵なしという状況を作り上げられている。

第6章 人間はロジックより感情に支配される ジェームズ・ワトソン

ジェームズ・ワトソンは、弱冠25歳でDNA二重螺旋構造の解明に成功したことで知られる分子生物学者です。

・科学研究の将来

生物科学の3つの重要研究分野は、第一に脳の発達と機能について、第二に老化にどう対処するかについて、第三にどうやって肥満化に歯止めをかけるかについてである。癌はすでに解決されつつあり、精神疾患はあまりにも複雑である。

・教育の基本は「事実に基づいて考える」ということ

多くの人が深く考えることなく、単にそれができるからという理由だけで行動している。適切な問題を見つけるには一流の人たちのいる場所に行くのがいい。若い頃は先生が適切な場所に送り出してくれるかどうかが鍵であるが、ある時から自分で判断しなければならなくなる。

 

まとめ

将来、教科書に名を連ねることになるであろう現代の巨人たちがそれぞれの専門分野の現在について語っており、とても刺激的でした。各々の人物とその業績についてもっと詳しく知りたいと感じました。