みんなどこにいる?:『広い地球に地球人しか見当たらない50の理由』
『広い地球に地球人しか見当たらない50の理由』青土社
著者:スティーブン・ウェッブ 訳:松浦俊輔
地球外文明は存在するはずなのに、われわれはその証拠をつかめない
「われわれは孤独なのか?」これは間違いなく、私たち人類が抱える究極の謎の一つでしょう。こんな途方も無い謎、しかしいずれは科学の力で解くことができるであろう謎が現時点において解かれずに残されていることを幸運と思い、手元にある数少ない手がかりから答えを予測します。
本書の概要
第2章 フェルミとそのパラドックス
エンリコ・フェルミは素粒子の振舞いの解析やリュートリノの存在の予言などの功績で知られる物理学者であり、1938年にはノーベル物理学賞を受賞した。また、マンハッタン計画に参加し重要な役割を果たした。フェルミは答えの大きさを推定することを得意とし、その方法は「フェルミ推定」と呼ばれる。
フェルミのパラドックスとは、地球外文明の存在の可能性は高いように思われるのに、その証拠が見当たらないというものである。
第3章 実は来ている
実は来ていると主張する解の候補が8つ示される。以下、いくつかを抜粋する。
解1 彼らはもう来ていて、ハンガリー人だと名乗っている
ハンガリー人は火星人だという話がある。ハンガリーの民族は歴史的に放浪癖があり、ハンガリー語は近隣で話される言語と類縁関係がなく、フォン・ノイマンをはじめとする人間離れした頭脳をいくつも生んでいる、等が理由として挙げられる。残念ながら、放浪癖を示した民族は色々あるし、ハンガリー語はいくつかの言語と類縁関係にあり、さらに最も賢い火星人ノイマンでもコンピュータ応用範囲は計算に限られるという予測は不正確だったようである。
解4 彼らは来ていてみんなここにいるーわれわれはみんなエイリアンだ
生命は地球以外の場所で誕生し、何らかの方法で地球に運ばれて来た(パンスペルミア説と呼ばれる)。派生型として、古い地球外文明が、生命が生き延びるのに有利な条件が揃っている惑星にむけて意図的に狙って生命の胞子を送ったとする意図的パンスペルミア説というものもある。生物学者が地球で利用できる物質から自然に生まれるという説得力のある理論を開発すれば、これらの仮説は棄却される。
解7 プラネタリウム仮説
われわれが暮らしている世界はシミュレ−ションーこの世界には知的生命がいないという幻想を与えるために開発された仮想現実のプラネタリウム−である。プラネタリウムの建設に必要なエネルギー量を計算すれば、K3文明(銀河全体のエネルギーを利用できる文明)であれば太陽系全体ほどの体積について完璧なシミュレーションを生成できるかもしれないと言える。われわれの技術ではこの宇宙が本物なのかシミュレーションなのか検証することはできないが、将来的に探査機を太陽系外に送り込み精密な検証を行うことができればこの仮説の真偽を確かめられるだろう。
第4章 存在するがまだ連絡がない
存在するがまだ連絡がないと主張する解の候補が22個示される。以下、いくつかを抜粋する。
解16 向こうは信号を送っているが、その聴きかたがわからない
電磁波、重力波、粒子ビーム、タキオンによる通信の特質を検討してみると、電磁波による通信が最も簡単で効率が良いとわれわれには思われる。地球外文明は電磁波以外の、ひょっとすればわれわれがまだ知らない通信手段を用いているのかもしれないが、他の文明と交信したいと考えれば、電磁波を用いて信号を送ると考えられる。
解17 向こうは信号を送っているが、合わせる周波数がわからない
40年以上の探査にも関わらず、人為的と思われる地球外からの信号は捉えられていない。「わお」信号は最も有名な信号であるが、現在では人工衛星からの信号であったと考えられている。現在はいくつかの理由から1.42GHzから1.64GHzの間の領域(ウォーターホールと呼ばれる)を中心に探査が行われているが、もっと広範囲の周波数の探査が必要かもしれない。
解20 まだ聴きはじめて間もない
地球外文明の信号を探知するには、ちょうどその時に、ちょうどその方向を、ちょうどその周波数に合わせて望遠鏡を向ける必要がある。われわれはまだ十分な期間探査していないのかもしれない。
解24 向こうは別の数学を使っている
数学者は大抵、数学は時間と空間の領域の外にイデアとして存在している、つまり、数学は考案されるものではなく、発見されるものであると考える。しかし、それとは逆に数学は人間の頭が考え出したものであると考える人もいる。地球外文明が使う数学はわれわれのものとは異なっており、その数学は技術的な発達を可能にしなかったのかもしれない。
解27 破滅のいろいろ
核戦争、人口過剰、グレー・グー問題(自己増殖するナノロボットが制御不能となり惑星を覆い尽くす)など、何らかの要因で全ての文明は破滅する運命にあるのかもしれない。
解30 無数のETCが存在するが、地球からの粒子の地平内では地球人だけ
粒子の地平とは、情報伝達速度の上限(光速)のせいで生じる、観測可能な範囲である。われわれの観測可能範囲の中には、われわれしかいないのかもしれない。
第5章 存在しない
実は来ていると主張する解の候補が19個示される。以下、いくつかを抜粋する。
解36 継続的に居住可能な領域は狭い
継続的居住可能領域(CHZ)とは、地球型惑星が10億年に渡って水を維持できる領域であり、太陽系の場合、内限が0.95天文単位、外限が1.01天文単位という計算結果がある。また、その惑星の属する恒星は、銀河中心から十分に離れた銀河居住可能領域(GHZ)にある必要がある。CHZと GHZに属する惑星は多くはないのかもしれない。
解42 こんな月はめったにない
月は親天体(地球)と比べて相当な大きさを持つ衛星である。
月を形成した衝突事件は地球の「ちょうど良い」と思われる地軸の傾きの誘因となり、月の潮汐力は大潮を伴う潮の満ち引きや地殻変動をもたらしている。これらが地球上における生命の発生・進化に影響を与えたことは間違いないが、月のような大きな衛星の存在が生命を宿す惑星に必要かどうかはわからない。
解49 科学は必然ではない
多くの偉大な哲学者を生み出した古代ギリシア文明も、立派な数学者を数多く擁したアラビア文明も、何百年もの間最も先進的であった中国文明も、近代科学の方法を開発することはなく、自然研究に科学的に取り組むことはなかった。科学を発展させるには、環境の制約や文化的因子、哲学的傾向、運など様々な条件がそろう必要があるのかもしれない。しかし、地球において文明の誕生から近代科学の勃興までわずか数千年しか要していないことを鑑みるに、地球外文明が科学を持たないとは考えにくい。
第6章 結論
著者にとって最も分かりやすい答えが提示されます。
宇宙にいるのはわれわれだけである。
パラドックスの答えは一つではなく、人類の特異性が導かれるいくつかの因子の組み合わせがある。
(1)GHZ、(2)恒星の種類、(3)CHZ、(4)生命発生の可能性、(5)惑星を見舞う災害、(6)地殻変動、(7)原核生物から真核細胞生物への進化、(8)道具、知能、言語、などの因子を考慮すれば、宇宙に存在する知性は1つだけになると考えられる。
まとめ
本書の中で提示されたフェルミのパラドックスに対する50個の答えは実に多岐に渡り、天文学や生物学は当然のこと、哲学や数学、科学史などの領域にも足を踏み入れつつそれぞれの答えに対してその是非を真摯に検討しています。様々な分野においてこれまで知らなかった考え方・仮説を知ることができました。パラドックスが人類の知性を深める過程を見ることができたような気がします。
僕としては、フェルミのパラドックスの答えとしては「地球外にも知性は少なからず存在し、地球よりも進んだ文明を築いている(築いた)。その文明からの信号を探知できていないのは、われわれが探査を始めてまだ間もないからである。また、その文明から宇宙船・使者が地球を訪れていないのは、その文明の活動範囲に地球が含まれないからである」と予想します。自分が生きているうちに地球外文明からの信号を探知できるかもしれないという楽観と、科学を究極的に発展させても銀河系全体を自由に旅するという夢は叶わないという悲観を含みます。