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現代の魔法使いが日本を再興させる:『日本再興戦略』

 

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『日本再興戦略』News Picks Book

著者:落合陽一

「世界で最も注目を集める日本人科学者が、日本再興のための戦略を考える」

メディアアーティストであり、筑波大学の研究者であり、ベンチャー企業の経営者である落合陽一氏が、ポスト平成の時代の、革命ではなくアップデートとしての日本再興のためのグランドデザインを描きます。

 

「本書の概要」

第1章 欧米とは何か

「欧米」というものは存在しない。「欧米」ではなくアメリカ、イギリス、ドイツなど国単位で語るべきである。いまの日本の大学や法律、農地などのシステムは、イギリス式、アメリカ式、ドイツ式、フランス式などが混ざってできている。いいとこ取りをしたつもりが、時代の変化によって悪いとこどりになっているケースが目立つ。「日本に何が向いているのか」「これから何が向いているのか」を、歴史を振り返りながら考えて行くことが大切。

日本人は「公平」であることに強いこだわりを持つが「平等」であることにはこだわりを持たない。したがって「男女平等」という概念は日本人にあっていない。

また、「近代的個人」という存在も日本人にはあっていない。日本人は相互依存的な生活を営んできたのに、西洋輸入の「個人」を目指すようになって個人に伴う孤独感を強めている。

さらに、「ワークライフバランス」という言葉が吹き荒れているが、ワークとライフを二分法で分けること自体が日本人にあっていない。日本人は仕事と生活が一体化した「ワークアズライフ」の方が向いている。

政治のあり方においても、明治以来の西洋的国民国家による中央集権体制は日本には向いていないと思う。もともと日本というのは、自然発生的な統治機構の更新が起こり、そして、一度集権してグランドデザインを行い、官僚主義的な運営とともに、大抵非非中央集権型社会型の安定状態を作る。地方分権による意思決定が向いている。

いまの日本は東洋化したほうが、イノベーションがより起きやすくなるはずである。日本人は個人としての異端にはなりにくいが、集団としての異端になるのは得意である。明治維新の時もいきなり西洋化したのだから、我々はいま、いきなり東洋化しても良い。

2000年ごろに日本が変われなかった理由は二つある。一つ目は、大きな社会変革を起こすには、まだ伝統的な日本企業が強すぎたこと。二つ目は、日本人の意識が昭和的均質のままだったこと。我々は、平成という時代を通して、昭和モデルから脱却しないといけないと思いながらも、最後まで脱却できなかった。昭和モデルをIT化できなかっただけでなく、昭和的なものの重要性を軽視しすぎて、昭和の遺産も食いつぶしてしまった。ポスト平成の時代に同じ過ちを繰り返してはならない。

第2章 日本とは何か

中臣鎌足による大化の改新によって、日本の基本スタイルが生まれた。日本の中心に天皇制という概念を王制として持ってくるが、天皇が政治をするわけではなくて、その横にいる官僚が政治を行うスタイルである。この統治スタイルはその後1300年にわたって大きな変化を起こしていない。

江戸時代に士農工商という序列制度を300年間続けた日本には、カーストが向いている。イノベーションを起こしたり制度設計をしたりする士、いくつもの生業を持つマルチクリエーターである百姓、ある分野の専門家である工、そして基本的には生産には関わらない商、という順の序列を持つ士農工商のモデルは、これからの時代にあっている。これからの時代には、商に当たるホワイトカラーの仕事はAIに取って代わられやすく、「百姓的に」色々な生産的活動を行うような生き方が重要になる。

現在、学生の間でメガバンクや商社や広告代理店などの「商」ばかりが人気であるように、クリエーションを中心に考えるカーストがなくなった原因は、マスメディアにあると思う。トレンディードラマは大衆に画一的なイメージを押し付け、日本人は「普通」という概念に強くとらわれることとなった。また、異常なまでの拝金主義が蔓延し、学生が好きでもないのにお金を稼げる金融機関に就職することとなっている。

拝金主義を脱するためにも、文化の育て方は欧州に学ぶべきである。「ものづくり」へのリスペクトを回復する必要がある。

第3章 テクノロジーは世界をどう変えるか

20世紀は、エジソンが電気製品を作って売り、フォードが自動車を大衆化した。この2人が20世紀の形を決定づけた。これからの時代の課題は、エジソンやフォードが生み出した、大量生産方式のものの作り方やマス体験の存在の仕方をどう変えていくかである。

今までの近代というマス世界=「1対N」の世界から、現代という多様世界=「N対N」の世界になると、「技術をオープンソース化していくこと」と「それをパーソナライズしていくこと」がキーワードになる。パーソナライズを支えるベーシックテクノロジーはAIやコンピュータサイエンスと呼ばれるようなものだと思う。

自動翻訳の精度は日進月歩であがっている。ロジカルにきちんと話せる人であれば、正確に自動翻訳してもらえるので、何語でも自由にコミュニケーションできる時代に向かっている。

自動翻訳が発達すると、飲食店のような日本のサービスが世界進出しやすくなる。逆に、IT産業や映像作品などのコンテンツ分野は苦戦をしいられると思われる。

自動運転タクシーが普及すればコストが下がるので頻繁にタクシーを使うことになるだろう。都心に住む意味が薄れ、軽井沢や葉山、鎌倉などから通う人がますます増えるかもしれない。

次世代通信システム5Gの通信速度は100倍、容量は1000倍になると言われる。この5Gを日本は世界に先んじて2020年から東京でスタートする予定である。5Gは医療ロボットによる手術や自動運転、コミュニケーション、テレプレゼンスなど様々な技術に活用でき、多くのビジネスチャンスを生む。日本が5Gに世界に先駆けて乗り出すのは大きなチャンスである。

「デジタルネイチャー」は未来を考える上でのキーワードである。デジタルネイチャーとはユビキタスの後、ミックスドリアリティを超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界のことである。

第4章 日本再興のグランドデザイン

人口減少・高齢化はチャンスである理由は3つある。一つ目は、自由化省人化に対する「打ち壊し運動」が起きないことである。今後の日本にとって機械化は社会正義となる。二つ目は、輸出戦略である。日本は人口減少・高齢化が早く進む分、高齢化社会に向けた新しい実験をやりやすい立場にある。これから中国を筆頭に世界中が高齢化するという状況下で、もし日本は人口減少と少子高齢化へのソリューションを生み出すことができれば、それは最強の輸出戦略になる。三つ目は、教育投資である。これからの日本は、人材の教育コストを多くかけることができる。子供に対して教育コストをかけることが社会正義でありしゃ改善になる。

日本は機械親和性が高く、ロボットフレンドリーな社会に変えやすい。自動運転は高齢者の移動問題のかなりの部分を解決できる。

ブロックチェーントークンエコノミーの技術はポイントカードが広く使われている日本とても相性が良い。ブロックチェーンの技術をうまく活用すれば、

地方自治体が独自に財源を確保して自立し、非中央集権的な世界観を作ったり、ローカル経済圏を作ってグーグル・アップル・アマゾンなどのシリコンバレーからの搾取に終止符を打ったりできる。

第5章 政治(国防、外交、民主主義、リーダー)

自動化によって自衛軍を強化することができる。日本は自衛しかしないと決めているので、ロボットが戦闘を行うことは人道的に認められるはずである。

外交の最重要テーマになるのはインドである。インドとともにアメリカと戦略を共有していれば日本の外交は安泰であると思われる。中国はやがて訪れる人口の問題が深刻である。北朝鮮との外交はより喫緊の課題である。

今の民主主義はスケールが大きく、多様な利害や意見を持つ人が増えすぎてうまく機能していない。地方自治を一気に推し進めるべきである。

リーダー1.0とは、これまでのリーダーの理想像で、一人でなんでもできて、マッチョで、強い人であり、中央集権的なリーダーである。

日本に必要なリーダー2.0には3つの条件が必要である。一つ目は、全てを自分でこなすのではなく、足りない能力は参謀などに補ってもらうという「弱さ」を持っていること。二つ目は、意思決定の象徴と実務権限の象徴は別でいいということ。三つ目は、後継者ではなく、後発を育てることができること。

安倍首相、小池都知事はリーダー2.0的なところをもち、小泉進次郎氏は古き良きリーダー1.0ですが、首相になる頃にはリーダー2.0力をつけていると思われる。

第6章 教育

新しい時代に磨くべき能力はポートフォリオマネジメントと金融投資能力である。ポートフォリオマネジメントとは、あらゆる人が、職業のポートフォリオを組みながら、暮らしていくということ。今の教育は専門家を育てるシステムになっている。金融投資能力は、時代感覚を掴む能力に近い。金融投資能力があれば、「何に張るべきか」を予測することができる。

幼児期は、子供がやりたがっていることを、なんでもやらせてあげ、五感をフルに使わせる。幼稚園に行かなくても良い。小学校では、好きなものや好きなアクティビティを見つけることが大切。高校は、ポートフォリオマネジメントと金融投資能力を身につけさせるのに適している。

センター試験はバランス型の人間を増やしてしまうため止めるべきである。

大学生には、研究を通じて、誰も知らないことを知る経験をさせるべきである。

MBAは、本質的な価値を作る人を生みにくい。MBAよりもアートの教育の方が大である。

英語教育よりも、日本語できちんと話す能力をつけさせることが大切。

第7章 会社・仕事・コミュニティ

「ワークアズライフ」の時代には、運動も含めて、自らのストレスをマネジメントできるかどうかが、クリエイティビティと生産性を決定づける。残業禁止などは本質的ではない。

日本の多くの大企業のようなでかくのろい「恐竜型企業」と、小さくフットワークの軽い「哺乳類型企業」を繋げて、イノベーションを起こさなければならない。哺乳類型企業を増やすためには、元気で専門性の高い若者が集まる大学への投資が必要である。兼業解禁と解雇規制の緩和が同時に必要である。大企業で生産性を持たず暇を持て余している「ホワイトカラーおじさん」はベンチャー企業に不足しているのもの補ってくれる存在であるから、兼業してベンチャーで働くべきである。

フランスのよう、なんでも「フィフティ・フィフティ」の男女平等を目指すのではなく、男女の比率を市場原理に応じて自由に変えられるようにすることを目指すべきだ。

これからの時代に適応して「デジタルヒューマン」に必要なものは、「今、即時的に必要なものをちゃんとリスクをとってやれるかどうか」である。リスクをあえてとるという判断は、統計的な機械にはなかなか取りにくい。

 

「まとめ」

人口減少・少子高齢という背景のもと、経済は停滞しIT革命に飲み込まれつつある今の日本に対して、僕も多くの日本人同様暗い未来を想像することが多かったのですが、落合氏の描く日本再興のグランドデザインは説得力があり、明るい気持ちで日本再興を成し遂げるための力になりたいと考えられるようになりました。