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日本の宇宙探査が危ない:『はやぶさ2の真実』

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出典:JAXA

はやぶさ2の真実』講談社現代新書

著者:松浦晋也

 

日本の宇宙探査の現状を知る

2010年6月13日、7年以上にわたる宇宙の旅を終え帰還を果たしたはやぶさは日本中を熱狂させました。そのはやぶさの後継機にあたるはやぶさ2の計画は何度も計画中止の危機に瀕しながらもそれを乗り越え、現在も目的の小惑星へ向け宇宙空間を航行中です。本書では初代はやぶさはやぶさ2を題材として取り上げながら課題が山積する日本に宇宙探査の現状を紹介します。

 

本書の概要

第1章 大いなる賭けであった初代はやぶさ

アメリカの太陽系探査は、豊富な資金と高い技術力を背景に、手堅く一歩一歩計画的に進んでいくとう特徴を持ちます。サンプルリターンを行うまでに①目的の星の横を通り過ぎるだけの探査機②目的の星を周回して長期観測を行う探査機③表面への着陸を行う探査機④サンプルリターンを行う探査機、というように段階的に計画を進めていくというスタイルです。

日本はアメリカのような豊富な予算を獲得することができないため、はやぶさは上の②〜④を一気に実施するという、“虎穴にいらずんば虎子を得ず”ということができるような計画でした。

はやぶさのために、弾丸を打ち込み小惑星からサンプルを採取するサンプラホーン、サンプルを地球に送り届ける地球帰還カプセル、燃費が良いイオンエンジン、高精度の航行を可能にする光学航法の4つの技術が新たに開発されました。

はやぶさは多くの困難に遭遇しました。第一の困難は往路で太陽フレアを浴びたことによる太陽電池の劣化、第二、第三の困難は姿勢を制御するリアクションホイールの2度の故障、第四の打撃はイトカワ着陸後の燃料の漏出による推進装置の故障と45日間の通信の途絶、第五の打撃は内臓リチウムイオンバッテリーの故障、第六の打撃は復路での4基のイオンエンジンのうち3基の故障でした。これらすべての困難を乗り越え、はやぶさは全ての任務を遂行し、見事地球にイトカワのサンプルを持ち帰ることに成功しました。

第2章 宇宙大航海時代

円軌道から瞬間的な加速によって楕円軌道へ移り、2度目の瞬間的な加速によって別の円軌道に移る方法はホーマン遷移と呼ばれ、最も少ないエネルギーで軌道を移ることができることが証明されています。

はやぶさの場合、燃費が良いが推進力が小さいイオンエンジンで航行するので、瞬間的な加速ができないのでホーマン遷移は行えません。はやぶさイオンエンジンによる長時間加速とスイングバイを巧みに組み合わせたEDVEGAという軌道を使ってイトカワに向かいました。

第3章 宇宙創成の謎に迫る

アメリカやロシア、中国は月からのサンプルリターンを実施していて、火星からのサンプルリターンの構想も持っています。

大きな星の場合、星の生成の過程で構成要素の微惑星は一度熔解して表面から冷えているため、太陽系創生の頃の痕跡が残っていません。一方、小惑星の場合、熔解が起こらないため、太陽系創生の頃の痕跡を残しています。

小惑星は構成する物質により分類できます。石や岩を主体とするS型小惑星、炭素を含むC型小惑星、ニッケルや鉄を主体とするM型小惑星、有機物が含まれ、かつ水が氷の形で存在している可能性があるP型小惑星、P型小惑星と似ているが、表面が一層暗くて光を反射しにくいD型小惑星などがあり、初代はやぶさがサンプルリターンしたイトカワはS型に分類されます。

初代はやぶさの後継機であるはやぶさ2は、はやぶさの通信途絶によって開発が急がれたため、「はやぶさの同型機を、素早く作り上げて打ち上げる」という制限がつけられました。P型やD型の小惑星はやぶさ同型機の能力で往復可能な範囲内に存在しないため、1999JU3というC型小惑星に決まりました。

第4章 これがはやぶさ2

初代はやぶさはやぶさ2を比較しつつ設計の説明がなされます。

打ち上げに使用するロケットがM-VロケットからH-ⅡAロケットに変わったことで、はやぶさ2は初代はやぶさより大きくなり、重量は90kg大きくなりました。

初代はやぶさは通信に使用する電波周波数が8〜12GHzのXバンドでしたが、はやぶさ2ではXバンドト27〜40GHzのKaバンドの2つに変更されたことで、高利得アンテナの数が1基から2基に変更されました。

はやぶさ2は、重量と容積の制限から初代はやぶさには搭載できなかった故障に備えるためのバックアップ系統が充実しています。

観測機器の強化も図られています。小惑星と物体の衝突を観測することと宇宙風化を受けていなサンプルを採取することを目的として、小惑星の表面に金属の砲弾を打ち込み、小さなクレーターを作って内部の物質を露出させる「衝突装置」という装置が搭載されました。

第5章 地上の長く曲がりくねった道

予算の縮小や、アメリカとの競争、JAXA内部からの反対などにより、はやぶさ2は何度も計画中止の危機に瀕しました。それでも川口淳一郎教授を中心とする粘り強い努力の結果、はやぶさ2計画は予算のやりくりになんとか成功し、計画の実行にこぎつけました。

第6章 未知の空間へ、未踏の星へ−日本の現状と宇宙探査の未来

継続的な宇宙探査のためには、はやぶさ2の次の計画を今から進めていく必要があります。

現在、ソーラー電力セイルという新しい宇宙航行技術を用いて、木星と同じ軌道に存在するトロヤ群小惑星からのサンプルリターンが検討されています。

ソーラー電力セイルとは、薄膜太陽電池を張ったソーラーセイルを宇宙空間で広げ、太陽光の圧力から推進力を得ながら発電した電力でイオンエンジンを駆動する方法で、2010年に打ち上げられたIKAROSの実験成果に基づいています。

宇宙開発を着実に進めるアメリカは、近い将来に国際協力による月以遠の大規模な有人探査計画を打ち出すことが予想されます。その時、日本側で宇宙探査の準備を整えておくためにも、次期の宇宙基本計画には、宇宙科学とは別個に宇宙探査できちんと項目を立てて予算措置を講じることを明言しておく必要があります。

 

まとめ

初代はやぶさの奇跡的な生還の物語と、現在宇宙を航行中のはやぶさの後継機はやぶさ2の概要の紹介に加え、はやぶさ2計画が直面した計画中止の危機についても詳しく言及されていています。日本が技術立国として先進するためにも国際的な役割を果たしていくためにも宇宙探査を継続して理学的・工学的成果を得続けることが重要であり、そのためには宇宙探査に興味を持ち続け応援するという国民の後押しが必要であることがわかりました。