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‘古典的’自己啓発本:『知的生活の方法』

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『知的生活の方法』講談社現代新書

著者:渡部昇一

 

知的生活の方法を伝授

今年4月に亡くなった英語学者の著者が知的生活の方法、とりわけ読書を中心とした生活の方法について、自身の体験をもとに様々な考察を行います。

 

本書の概要

1 自分をごまかさない精神

ごまかしたりズルをしたり、そこまでいかなくてもよく分からないのにわかったふりをすることは上達を妨げます。「知的正直(intellectual honesty)」が進歩には不可欠となります。著者は高校時代に漱石の『草枕』を読んだ時には面白さを感じられませんでしたが、大学三年の夏に再度漱石を読んでみると心底面白いと感じたそうで、その時の感覚を「知的オルガスムス」と表現します。その後、米文学『マジョリー・モーニングスター』を読んだ時にも同様の体験をしたと語ります。本を読んだ時、知的オルガスムスを感じない場合にはその不全感をごまかさず、自分に忠実であるよう心がけているそうです。

2 古典をつくる

古典は、国民の間での時間をかけた繰り返しの中で忘れ去られることなく読まれたり上演されたりし続けたものです。これと同様のプロセスを経て、「私の古典」というべきものが成立します。すなわち、なんども同じ本を読んでいく中で、それに繰り返しに耐える本や作者に巡り会えば、それは自分だけの古典と言えるということです。ちなみに著者の古典は『半七捕物帳』だそうです。

3 本を買う意味

身銭を切って本を買うことは判断力を確実に向上させる良い方法になります。また、いつか読んだ本をふと読みたくなった時にその本が手元にあるということはとても大切なことです。この繰り返し読むという行為が記憶の定着を助けます。

著者は読んだ本の興味を引いたことをカードに書き留めるカード・システムを推奨しません。カードに書き留めることには非常な精神的努力とエネルギーと時間が必要で、さらにはカードを取ることが億劫で読書ができなくなるなどの危険があるからです。代わりに、本を買って線を引いたり書き込んだりすることを勧めます。

4 知的空間と情報整理

受動的知的生活、すなわち本を読み、考え、友人と話し合う生活においてはそれほど多くの蔵書は必要ではありません。しかし、能動的知的生活、すなわち半や論文を書いたりマスメディアに意見を発表したりする生活には多くの蔵書とそれを保管する空間が必要不可欠です。蔵書の量が能動的生活の生産の速度を決定づけるのです。

著者は都心の狭い住空間の中で蔵書を保する空間をやりくりする方法を紹介します。能動的知的生活に理想的な住居の設計図も提案されています。

5 知的生活と時間

誰にも等しく与えられた24時間の中で知的生活を送るためには時間を無駄にすることに無頓着ではいけません。時間を無駄にするという意味で、避けるべきは友達と一晩飲み明かすとかヘボ将棋を指すとかいうことよりもむしろ、完璧を求めるあまり雄大な計画の細部に際限なく拘泥することやギリシャ語やラテン語を習得しようと膨大な時間とエネルギーを費やすことの方が大いに危険だと主張します。

カントやゲーテは夜明け前に起床し、午前から知的生活を送っていたといいます。著者も大学時代は彼らに倣って朝型の生活を送っていたそうですが、自分が低血圧で夜型の生活に向いていると思ってからは夜型の生活にシフトしたそうです。

6 知的生活の形而下学

専門外の人たちとの交際を楽しむこと、栄養面や量の面で適切な食事をとること、散歩で気分転換を図ること、お互いの知的生活を尊重しあえるような配偶者を見つけることなど、形而下学的な事柄に対するアドバイスを提供します。

 

まとめ

外山滋比古氏の「思考の整理学」と似たスタイルで読者に知的生活のためのヒント・アドバイスを与えてくれます。当然ながら両者の言葉に共通することがありますが、相違点もあり、例えば渡部氏は本書で自分が夜型の生活を送っていることを告白しますが、外山氏は朝食前に仕事に取り掛かるという朝型の生活を20年以上続けていると語っていました。