The Room of Requirement

必要な人が必要な時に必要なことを

Remember Catastrophes:『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』

f:id:my299792458:20171115014949j:plain

出典:NASA

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』草思社文庫

著者:ジェームズ・R・チャイルズ

 

私たちが経験した大事故を振り返り、学ぶ

現代において、巨大システムの制御室は最も危険な場所の一つとなっています。本書では、50あまりの事例を紹介しながらそこに見いだすことができるエッセンスを抽出し、より好ましいマシンと人間の関係を模索します。

 

本書の概要

序章 より巨大に、より高エネルギーに

人類は、遺伝的には何千年前と変わっていないのに、我々の科学技術の世界は毎日疾走を続けている。しかも、そのスピードはますます加速しつつある。今日では我々の多くが自分の命をマシンとそのオペレータに差し出しているが、そのことに関しては事態が衝撃的なほど悪化することがたまにあるということ以外にはほとんど何も知らない。我々の世界においては今や平凡なミスが莫大な被害を招きかねないことを認める必要があるし、その結果として、より高度の警戒が求められるばかりでなく、家庭や小企業のレベルまでもがこうどの警戒をしなければならいないことを知る必要がある。

第1章 信じがたいほどの不具合の連鎖

1982年2月14日、当時最新鋭の半潜水式石油掘削装置「オーシャンレンジャー」は十分に想定された強さの嵐の中で、想定に従わず転覆した。高波が制御室の小窓を破り制御パネルにダメージを与えたことを発端に、様々な不具合が連鎖的に発生し、ある時点で危機は自己増幅を始め、最終的に巨大な船を転覆させ、乗組員84人全員の命を奪うに到るまで誰にも止めることはできなかった。しかしこの不具合の連鎖は、新人に対する研修制度が反故になっていなければ、制御室に一人でも状況を短時間で適切に判断できる人間がいれば、暴風雨を想定した避難訓練が行われていれば、あるいは断ち切ることができた可能性がある。

第2章 スルーマイルアイランド原発事故

人間は精神的圧迫を受けると飛躍した結論を出す傾向が強いにもかかわらず、それを克服できるほどの単純明快さを持った計器が備わっていないマシンは、「盲点を持ったマシン」である。スリーマイルアイランド原発の盲点は最も高くついた。加圧器の圧力逃し弁の開閉を示す警報ランプの誤表示は他の計器が示す情報と矛盾するため、運転員に巨大で意味のない恐怖(ビュジャデと呼ばれる)を与え、運転員は誤った推論から間違った行動をとることとなり、結果的には40億ドル以上の損失をもたらした米国史上最悪の工業事故へ帰結した。

第3章 「早くしろ」という圧力に屈する

1986年1月28日に発生したチャレンジャー号空中爆発事故は悪夢のような出来事だった。打ち上げ直前の気温の低さによって固体ロケットブースターの接合部の密封能力が落ちていると予想されたためシオコール社の技術者たちは打ち上げを延期するようNASAに警告したが、NASAはスケジュール通りの打ち上げを最優先し、警告を黙殺した。チャレンジャー号は空中で爆発し、機体から分離した乗員室は時速300kmで海面に激突し、7人の宇宙飛行士の命が奪われた。宇宙旅行の危険性を適切に評価した上で、適性検査のための十分な時間と予算を獲得できていれば、この最悪の悲劇は避けられたはずである。

第4章 テストなしで本番にのぞむ

第二次世界大戦で米国海軍が使用した最新式の潜水艦搭載用魚雷マーク4は全く役に立たなかった。標的に当たる前に爆発してしまうか、命中しても不発に終わるというものがほとんどという有様だった。また、ハッブル宇宙望遠鏡は、信じられないことに、アマチュア天文家でも気がつくような欠陥を抱えたまま軌道に投入され、のちに修理ミッションが遂行されるまで全く機能せず、修理によっても根本的な問題は解決できなかった。これらの失敗の原因は、予算不足と楽観主義のせいで必要な動作試験が行われなかったことにある。

第5章 最悪のシナリオから生還する能力
第6章 大事故をまねく物質の組み合わせ
第7章 人間の限界が起こした事故
第8章 事故の前兆を感じ取る能力
第9章 危険に対する健全な恐怖
第10章 あまりにも人間的な事故
第11章 少しずつ安全マージンを削る人たち
第12章 最悪の事故を食い止める人間

 

マシンが反乱を起こす条件

最悪の事態を招く要因として以下の4つが挙げられます。

  1. 極めて多くの人がマシンの言うなりになり、そのマシンが正常に作動という前提でのみ生命が保証されるような状況に立っていること。
  2. こうした技術の抱える問題は極めて深刻で、良好な条件下でさえ次第に表面に現れ始めること。
  3. 現場担当者から提出された問題報告書に対して管理責任者が適切な処理をしていないこと。
  4. 地震や嵐といった自然の力が到来して、見せかけの安全性をぶち壊してしまうこと。

 

最悪の事故を防ぐために

・リーダーに、自分の決定に責任を持たせる

例えば、「パイロットが要求すれば、飛行命令を下す監理者はコックピットに同乗して空港上空を旋回しなければならない」と定めることにより、悪天候や視界不良の状況下での無謀な飛行命令を減らすことができる。

・事故の原因は企画・設計の段階で生じる

文筆家は九死に一生を得た話を好むが、最悪の事態の回避を、オペレータや操縦者に委ねるのは見当違いである。また、制御法や設備を標準化することは安全性の向上に大きく貢献する。

・常にもう一つの案を用意しておく

いかなる力を持ってしても、あらゆるものを完璧にコントロールし続けるとこはできない。事前に脱出方法を考えておかない限り、予測のつかない状況には足を踏み入れてはいけない。

・長時間のうちには確率の低い事故も起きる

確率が低いということは、起こり得ないということを意味するのではなく、起こるまでに時間がかかるということを意味しているのである。

・最後の最後まで諦めない

破滅寸前に追い込まれた時は、痛みには目をつぶって捨て身の方法を試してみるべきである。凍てつく海で2時間生き続けた事例や60m以上の高度から落下して助かった事例はいくつもある。生存への執着心が大きく作用するのである。

・情報を封印するなかれ

組織はトラブルの元になりそうな問題点は隠蔽するものである。

 

まとめ

現代では、人々は巨大システムに大きく依存するとこで快適で便利な生活を享受しているので、マシンとうまく付き合っていくとこは必須となっています。過去の事故についての第三者の立場からの分析は、数々の事例に共通した要因を見出せるということ、そしてそれは私たちに有用な行動指針を与えてくれるということがわかりました。