The Room of Requirement

必要な人が必要な時に必要なことを

人間性の暗黒面を探る:『ルシファー・エフェクト』

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『ルシファー・エフェクト』海と月社

著者:フィリップ・ジンバルドー

 

悪とは何かを知らずして、悪を正すことはできない

1971年に行われたスタンフォード監獄実験は、人間の信じられないような負の側面を暴き出したことで世界中に衝撃を与えました。現在でも、社会心理学の分野では頻繁に言及されます。本書は監獄実験を行なった張本人であるジンバルドー教授が実験の詳細な報告を行なったものです。倫理的問題から2度と追試が行われることはないからこそ、この貴重な実験から多くを学ぶ必要があると思います。

 

本書の概要

第1章 悪の心理学

天使ルシファーは神の権威に逆らったために取り巻きの堕天使とともに地獄へ追放された。ルシファーは神の創造物である人間を堕落させることで神への復讐を果せると考え、アダムとイヴを誘惑し悪の道へ引き入れる策略に成功した。

悪を「罪のない人に対し、虐待、侮辱、人格蹂躙、傷害、殺害などの行為を故意に加えること。もしくは、権力や組織の力を利用して、そのような行為を自分の代わりに他人が行うのを助長、または許可すること」と定義する。

第2章 日曜日。突然の逮捕

刑務所生活の実験に応募した人の中からあらゆる意味で平均的で教養ある若者であるとして選ばれた9名の学生は、本物の警察に逮捕され手錠をかけられ、警察署に連行された。学生たちは突然の逮捕に驚くも、実験の開始であると気がついて警察の指示に従った。本物と同じ一連の手続きを終えた後、囚人役を務めることになる彼らは目隠しをされて、スタンフォード大学の地下に設営された模擬刑務所へ運ばれた。そこでは、囚人役の学生と同様、応募の中から選ばれた学生が看守役を務めるために待ち構えていた。

第3章 尊厳を奪い去る儀式

刑務所にたどり着くと、囚人役は衣服を脱いでシラミ駆除剤(の代わりのパウダー)を吹き付けられた後、識別番号が記された囚人服に着替えた。この他スイミングキャップのような帽子とゴム靴を着用し、片足には鍵付きの鎖をはめられた。一列に整列した囚人役に、看守役は刑務所での規則を言い渡した。

規則は17ヵ条あり、第8条「囚人は、看守には“刑務官殿”、所長には”刑務官長殿”という呼称を使うこと。」第9条「囚人は自らが置かれた状況を“実験”“シミュレーション”と称してはならない。」などが含まれる。続いて最初の点呼がおこなわれた。囚人は識別番号で呼ばれ、動きが遅い囚人は10回の腕立て伏せを命じられた。9人の囚人は3人ずつ3つの監房へ入れられた。

看守が夜勤と交代した後に行われた点呼では、看守は「声が小さい」「節のつけ方が下手」などと言いがかりをつけて腕立て伏せを命じた。看守の命令に異議を唱えた囚人は懲罰房へと入れられた。

早朝のシフトの看守は午前2時半のけたたましい警笛で囚人を叩き起こした。点呼ではミスを冒した者は腕立て伏せやジャンピングジャックを命じられた。小一時間続いた点呼の後、囚人は再び眠りにつくことを許された。

自主的に残酷さをましていく看守たちは、このまま行動をエスカレートさせるのか、それともどこかで均衡のようなものに達するのか、この時点ではわからなかった。

第4章 月曜日。囚人の反逆

午前6時ちょうど、囚人たちは睡眠から呼び覚まされ、点呼を行った。

囚人8612はベッドメイキングのやり直しを命じられて激昂し、看守に掴みかかった。8612は看守たちに取り押さえられ、懲罰房へ入れられた。制御不能に傾きつつある囚人たちを引き締めるため、看守たちは毛布を低木の茂みにすりつけて毬や棘だらけにして看守たちに取り除かせた。

囚人は監房のドアにベッドを押し付けてバリケードを気づいて抵抗運動を始めた。看守は昼のシフトの3人と合わせて6人でなんとか沈静化した。

5704は長い爪でコンセントの保護板をはがし、その角で監房のドア鍵を外して脱走しようとしたが、運悪く看守にばれてしまった。

ただならぬ空気になってきたと感じたジンバルドー教授は囚人の代表3名からなる“苦情申し立て委員会”の結成を許可した。委員会は看守の虐待、嫌がらせの度が過ぎていることや食事の量が少ないこと、面会を増やして欲しいことなどを訴えた。

8612は態度を軟化させることはなく、ジンバルドー教授との面会を要求した。8612は看守による囚人たちの扱いは契約違反だと主張したが、実験のアドバイザーとして同席した元囚人のカルロ氏の剣幕と教授の説得で実験への参加を継続することに同意した。囚人たちの元に帰った8612は、「脱落は不可能である」と触れ回った。この衝撃的な通告は囚人たちの心をくじくこととなった。

看守たちの行動は過激さを増し続け、懲罰房に何度も入れられることとなった8612は、結局不満を爆発させ、その日のうちに実験から脱落することが決定された。2週間を予定していた実験の、たった2日が終わっただけだった。

第5章 火曜日。訪問客と暴徒の二重苦

看守を演じる学生の一部は、単なる演技の域を大きく踏み越えつつあった。最高責任者であるジンバルドー教授についても、離脱した8612が仲間を引き連れて刑務所を襲撃に来るという噂に必要以上に反応し、過剰な対策を取って時間と労力を無駄にするなど、普段とは異なる心理状態に陥ってしまっていた。離脱した8612に変わって、スパイとして囚人役を務めることになった学生は、すぐに囚人役に没入しスパイの役割を放棄してしまった。囚人の家族との面会では、本物の刑務所さながら、面会の時だけは刑務所内を清潔に保ち囚人には刑務所の快適さ・充実ぶりを家族に話させた。

第6章 水曜日。制御不能

本物の刑務所に倣い、囚人と神父との面会が企画されたが、この面会の様子は現実と幻想の境界線が薄れつつあるということを象徴していた。本物の刑務所を直に知る本物の神父が、模擬監獄に過ぎないことを重々承知しながらも、自分に与えられた役柄に深くのめり込み、囚人たちの話を聞き、助言を与え、励まし、協力することを約束したのだった。この日の朝、819が騒動を起こした。怒りに任せて枕を引き裂き、中身の羽根をあたり一面にぶちまけた。看守は連帯責任として囚人全員に罰を与えた。819は懲罰房でヒステリーに陥っていたが、教授が実験をやめにして帰宅しても良いという提案を、驚くことに、仲間に迷惑をかけたままにはできないと言って断った。結局、819は実験を降りることになった。欠員を補うために新たに実験に参加した416は、一人でハンガーストライキを始め、看守の命令や仲間の説得を無視して2本のソーセージを食べるのを拒み続けた。看守の一人が腕立て伏せをする416の背中を踏みつけても食べなかった。

第7章 「仮釈放」という権力

自由になれるという思わぬ機会に囚人がどう対処するのかを観察するために仮釈放委員会を設置し、素行の良い4人の囚人を選んで現時点で自分が釈放に値すると思う理由を述べさせた。4人とも釈放を望んで自らの主張を訴えようとしたが、仮釈放委員長のカルロは強い口調で囚人たちを口撃し時には人種差別的発言や人格否定までしながらその主張を突っぱねた。本物の仮釈放委員会で自分が囚人としてひどい扱いを受けてきたことに強い不満を持っていたのにも関わらず。

「仮釈放と引き換えなら、囚人としての報酬を全額放棄しても構わないか?」という問いかけに対しては、なんと4人中3人が同意した。囚人たちはいつでも自分の判断で実験から降りてそれまでの報酬を受け取ることができるということを忘れてしまっていたのだろうか?

第8章 木曜日。現実との対峙

1037はこの日、過度のストレスの兆候を見せ、釈放されることとなった。この知らせを聞いた4325は、自分が仮釈放の機会を逃したのだと考え、この日の午後、突然おかしくなった。やむなく4325も釈放されることとなった。

スタンフォード大学社会心理学の博士号を取得したクリスティーナ・マスラック(ジンバルドーとは恋人関係にあった)は模擬監獄での囚人、看守、そして研究者の様子を目の当たりにひどく心を痛め、憤慨し抗議した。ジンバルドーとの激しい口論の末、実験中止を決断させた。

この最中にも、刑務所内の状況は悪化し続けていた。看守は点呼の際に2人の囚人にラクダの交尾の真似をするように命令した。たった5日間でこれほどの性的な辱めが横行するようになってしまった。

第9章 意外な終焉

「実験は終わりだ。全員、自由に帰っていい。」模擬監獄の全ての人がその役割から解放された瞬間だった。報告会は3回に分けて行われた。1時間目には早期釈放されたものも含めた元囚人たちが集まった。最後まで残った元囚人があからさまに偉ぶったりすることはなかったが、元囚人たちは元看守たちを激しくなじった。2時間目には元看守たちが集まった。囚人たちから”良い看守”と評価されたものたちは実験が終わったことを喜んでいるものの、その他大勢は実験中止の決定に失望を隠しきれない様子だった。元看守の中にはやりすぎだったと素直に謝ろうとする態度のものもいたが、逆に自分の行動を正当化する元看守も少なくなかった。3時間目には元囚人と元看守が対面した。報告会はぎこちない礼儀正しさに包まれていたが、数人の看守が公に謝罪したことで過度に険悪化することは免れた。

第10章 スランフォード監獄実験の意味 人格豹変の魔力
第11章 監獄実験の倫理と広がり

この2章ではスタンフォード監獄実験から得られた教訓を様々な面から考察している。

 

第12章 権力への「同調」と「服従
第13章 没個性、非人間化、そして怠慢の悪

被験者が権威に命令されて他人に電撃を与えるというミルグラムの実験や

アメリカの高校で行われたナチスドイツをシミュレーションしてみるという試みなど、悪をめぐる数々の実験が紹介される。

 

第14章 アブグレイブの虐待と拷問
第15章 “システム”にメスを入れる

この2章では、アブグレイブ刑務所での事件について詳しく書かれている。

裸の囚人の男たちがピラミッド状に積み重ねられた山を前にして薄ら笑いを浮かべて立っている米軍兵士の写真や、女性兵士が裸の囚人の首に犬用のリードをつけ引き回している写真などがリークされ、全米に衝撃を与えた。

頭に袋を被せられた囚人、裸体、性的屈辱を味わわせるゲーム、…、その様子はスタンフォード監獄実験で観察された状況と酷似していた。まるで、スタンフォード監獄実験の最悪のシナリオが、ゾッとするような条件下で数カ月に渡って実行されたかのようだった。

第16章 あなたが次の英雄だ

望ましくない力に抵抗する10段階の対処法が紹介される。抵抗の鍵は3つのSを発展させるとこである。つまり自己認識(self-awareness)、状況感度(situational sensitivity)、処世術(street swarts)である。

 

まとめ

平時において人間は天使でも悪魔でもありませんが、システムはいとも簡単に人間を天使にも悪魔にも変えてしまうことがわかりました。 凶悪な事件を起こした人間や目を背けたくなるような残虐性を晒す人間に対しては「異常」「サイコパス」といった言葉を当てはめ、自分とは別種の人間であると考えがちですが、本書を読むに当たっては、「自分もこの状況下ならこのように行動してしまうかもしれない」と考えながら読むことが重要です。

みんなどこにいる?:『広い地球に地球人しか見当たらない50の理由』

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『広い地球に地球人しか見当たらない50の理由』青土社

著者:スティーブン・ウェッブ 訳:松浦俊輔

 

地球外文明は存在するはずなのに、われわれはその証拠をつかめない

「われわれは孤独なのか?」これは間違いなく、私たち人類が抱える究極の謎の一つでしょう。こんな途方も無い謎、しかしいずれは科学の力で解くことができるであろう謎が現時点において解かれずに残されていることを幸運と思い、手元にある数少ない手がかりから答えを予測します。

 

本書の概要

第2章 フェルミとそのパラドックス

エンリコ・フェルミ素粒子の振舞いの解析やリュートリノの存在の予言などの功績で知られる物理学者であり、1938年にはノーベル物理学賞を受賞した。また、マンハッタン計画に参加し重要な役割を果たした。フェルミは答えの大きさを推定することを得意とし、その方法は「フェルミ推定」と呼ばれる。

フェルミパラドックスとは、地球外文明の存在の可能性は高いように思われるのに、その証拠が見当たらないというものである。

第3章 実は来ている

実は来ていると主張する解の候補が8つ示される。以下、いくつかを抜粋する。

解1 彼らはもう来ていて、ハンガリー人だと名乗っている

ハンガリー人は火星人だという話がある。ハンガリーの民族は歴史的に放浪癖があり、ハンガリー語は近隣で話される言語と類縁関係がなく、フォン・ノイマンをはじめとする人間離れした頭脳をいくつも生んでいる、等が理由として挙げられる。残念ながら、放浪癖を示した民族は色々あるし、ハンガリー語はいくつかの言語と類縁関係にあり、さらに最も賢い火星人ノイマンでもコンピュータ応用範囲は計算に限られるという予測は不正確だったようである。

解4 彼らは来ていてみんなここにいるーわれわれはみんなエイリアンだ

生命は地球以外の場所で誕生し、何らかの方法で地球に運ばれて来た(パンスペルミア説と呼ばれる)。派生型として、古い地球外文明が、生命が生き延びるのに有利な条件が揃っている惑星にむけて意図的に狙って生命の胞子を送ったとする意図的パンスペルミア説というものもある。生物学者が地球で利用できる物質から自然に生まれるという説得力のある理論を開発すれば、これらの仮説は棄却される。

解7 プラネタリウム仮説

われわれが暮らしている世界はシミュレ−ションーこの世界には知的生命がいないという幻想を与えるために開発された仮想現実のプラネタリウム−である。プラネタリウムの建設に必要なエネルギー量を計算すれば、K3文明(銀河全体のエネルギーを利用できる文明)であれば太陽系全体ほどの体積について完璧なシミュレーションを生成できるかもしれないと言える。われわれの技術ではこの宇宙が本物なのかシミュレーションなのか検証することはできないが、将来的に探査機を太陽系外に送り込み精密な検証を行うことができればこの仮説の真偽を確かめられるだろう。

第4章 存在するがまだ連絡がない

存在するがまだ連絡がないと主張する解の候補が22個示される。以下、いくつかを抜粋する。

解16 向こうは信号を送っているが、その聴きかたがわからない

電磁波、重力波、粒子ビーム、タキオンによる通信の特質を検討してみると、電磁波による通信が最も簡単で効率が良いとわれわれには思われる。地球外文明は電磁波以外の、ひょっとすればわれわれがまだ知らない通信手段を用いているのかもしれないが、他の文明と交信したいと考えれば、電磁波を用いて信号を送ると考えられる。

解17 向こうは信号を送っているが、合わせる周波数がわからない

40年以上の探査にも関わらず、人為的と思われる地球外からの信号は捉えられていない。「わお」信号は最も有名な信号であるが、現在では人工衛星からの信号であったと考えられている。現在はいくつかの理由から1.42GHzから1.64GHzの間の領域(ウォーターホールと呼ばれる)を中心に探査が行われているが、もっと広範囲の周波数の探査が必要かもしれない。

解20 まだ聴きはじめて間もない

地球外文明の信号を探知するには、ちょうどその時に、ちょうどその方向を、ちょうどその周波数に合わせて望遠鏡を向ける必要がある。われわれはまだ十分な期間探査していないのかもしれない。

解24 向こうは別の数学を使っている

数学者は大抵、数学は時間と空間の領域の外にイデアとして存在している、つまり、数学は考案されるものではなく、発見されるものであると考える。しかし、それとは逆に数学は人間の頭が考え出したものであると考える人もいる。地球外文明が使う数学はわれわれのものとは異なっており、その数学は技術的な発達を可能にしなかったのかもしれない。

解27 破滅のいろいろ

核戦争、人口過剰、グレー・グー問題(自己増殖するナノロボットが制御不能となり惑星を覆い尽くす)など、何らかの要因で全ての文明は破滅する運命にあるのかもしれない。

解30 無数のETCが存在するが、地球からの粒子の地平内では地球人だけ

粒子の地平とは、情報伝達速度の上限(光速)のせいで生じる、観測可能な範囲である。われわれの観測可能範囲の中には、われわれしかいないのかもしれない。

第5章 存在しない

実は来ていると主張する解の候補が19個示される。以下、いくつかを抜粋する。

解36 継続的に居住可能な領域は狭い

継続的居住可能領域(CHZ)とは、地球型惑星が10億年に渡って水を維持できる領域であり、太陽系の場合、内限が0.95天文単位、外限が1.01天文単位という計算結果がある。また、その惑星の属する恒星は、銀河中心から十分に離れた銀河居住可能領域(GHZ)にある必要がある。CHZと GHZに属する惑星は多くはないのかもしれない。

解42 こんな月はめったにない

月は親天体(地球)と比べて相当な大きさを持つ衛星である。

月を形成した衝突事件は地球の「ちょうど良い」と思われる地軸の傾きの誘因となり、月の潮汐力は大潮を伴う潮の満ち引きや地殻変動をもたらしている。これらが地球上における生命の発生・進化に影響を与えたことは間違いないが、月のような大きな衛星の存在が生命を宿す惑星に必要かどうかはわからない。

解49 科学は必然ではない

多くの偉大な哲学者を生み出した古代ギリシア文明も、立派な数学者を数多く擁したアラビア文明も、何百年もの間最も先進的であった中国文明も、近代科学の方法を開発することはなく、自然研究に科学的に取り組むことはなかった。科学を発展させるには、環境の制約や文化的因子、哲学的傾向、運など様々な条件がそろう必要があるのかもしれない。しかし、地球において文明の誕生から近代科学の勃興までわずか数千年しか要していないことを鑑みるに、地球外文明が科学を持たないとは考えにくい。

第6章 結論

著者にとって最も分かりやすい答えが提示されます。

解50 フェルミパラドックスは解決した

宇宙にいるのはわれわれだけである。

パラドックスの答えは一つではなく、人類の特異性が導かれるいくつかの因子の組み合わせがある。

(1)GHZ、(2)恒星の種類、(3)CHZ、(4)生命発生の可能性、(5)惑星を見舞う災害、(6)地殻変動、(7)原核生物から真核細胞生物への進化、(8)道具、知能、言語、などの因子を考慮すれば、宇宙に存在する知性は1つだけになると考えられる。

 

まとめ

本書の中で提示されたフェルミパラドックスに対する50個の答えは実に多岐に渡り、天文学や生物学は当然のこと、哲学や数学、科学史などの領域にも足を踏み入れつつそれぞれの答えに対してその是非を真摯に検討しています。様々な分野においてこれまで知らなかった考え方・仮説を知ることができました。パラドックスが人類の知性を深める過程を見ることができたような気がします。

僕としては、フェルミパラドックスの答えとしては「地球外にも知性は少なからず存在し、地球よりも進んだ文明を築いている(築いた)。その文明からの信号を探知できていないのは、われわれが探査を始めてまだ間もないからである。また、その文明から宇宙船・使者が地球を訪れていないのは、その文明の活動範囲に地球が含まれないからである」と予想します。自分が生きているうちに地球外文明からの信号を探知できるかもしれないという楽観と、科学を究極的に発展させても銀河系全体を自由に旅するという夢は叶わないという悲観を含みます。

Remember Catastrophes:『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』

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出典:NASA

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』草思社文庫

著者:ジェームズ・R・チャイルズ

 

私たちが経験した大事故を振り返り、学ぶ

現代において、巨大システムの制御室は最も危険な場所の一つとなっています。本書では、50あまりの事例を紹介しながらそこに見いだすことができるエッセンスを抽出し、より好ましいマシンと人間の関係を模索します。

 

本書の概要

序章 より巨大に、より高エネルギーに

人類は、遺伝的には何千年前と変わっていないのに、我々の科学技術の世界は毎日疾走を続けている。しかも、そのスピードはますます加速しつつある。今日では我々の多くが自分の命をマシンとそのオペレータに差し出しているが、そのことに関しては事態が衝撃的なほど悪化することがたまにあるということ以外にはほとんど何も知らない。我々の世界においては今や平凡なミスが莫大な被害を招きかねないことを認める必要があるし、その結果として、より高度の警戒が求められるばかりでなく、家庭や小企業のレベルまでもがこうどの警戒をしなければならいないことを知る必要がある。

第1章 信じがたいほどの不具合の連鎖

1982年2月14日、当時最新鋭の半潜水式石油掘削装置「オーシャンレンジャー」は十分に想定された強さの嵐の中で、想定に従わず転覆した。高波が制御室の小窓を破り制御パネルにダメージを与えたことを発端に、様々な不具合が連鎖的に発生し、ある時点で危機は自己増幅を始め、最終的に巨大な船を転覆させ、乗組員84人全員の命を奪うに到るまで誰にも止めることはできなかった。しかしこの不具合の連鎖は、新人に対する研修制度が反故になっていなければ、制御室に一人でも状況を短時間で適切に判断できる人間がいれば、暴風雨を想定した避難訓練が行われていれば、あるいは断ち切ることができた可能性がある。

第2章 スルーマイルアイランド原発事故

人間は精神的圧迫を受けると飛躍した結論を出す傾向が強いにもかかわらず、それを克服できるほどの単純明快さを持った計器が備わっていないマシンは、「盲点を持ったマシン」である。スリーマイルアイランド原発の盲点は最も高くついた。加圧器の圧力逃し弁の開閉を示す警報ランプの誤表示は他の計器が示す情報と矛盾するため、運転員に巨大で意味のない恐怖(ビュジャデと呼ばれる)を与え、運転員は誤った推論から間違った行動をとることとなり、結果的には40億ドル以上の損失をもたらした米国史上最悪の工業事故へ帰結した。

第3章 「早くしろ」という圧力に屈する

1986年1月28日に発生したチャレンジャー号空中爆発事故は悪夢のような出来事だった。打ち上げ直前の気温の低さによって固体ロケットブースターの接合部の密封能力が落ちていると予想されたためシオコール社の技術者たちは打ち上げを延期するようNASAに警告したが、NASAはスケジュール通りの打ち上げを最優先し、警告を黙殺した。チャレンジャー号は空中で爆発し、機体から分離した乗員室は時速300kmで海面に激突し、7人の宇宙飛行士の命が奪われた。宇宙旅行の危険性を適切に評価した上で、適性検査のための十分な時間と予算を獲得できていれば、この最悪の悲劇は避けられたはずである。

第4章 テストなしで本番にのぞむ

第二次世界大戦で米国海軍が使用した最新式の潜水艦搭載用魚雷マーク4は全く役に立たなかった。標的に当たる前に爆発してしまうか、命中しても不発に終わるというものがほとんどという有様だった。また、ハッブル宇宙望遠鏡は、信じられないことに、アマチュア天文家でも気がつくような欠陥を抱えたまま軌道に投入され、のちに修理ミッションが遂行されるまで全く機能せず、修理によっても根本的な問題は解決できなかった。これらの失敗の原因は、予算不足と楽観主義のせいで必要な動作試験が行われなかったことにある。

第5章 最悪のシナリオから生還する能力
第6章 大事故をまねく物質の組み合わせ
第7章 人間の限界が起こした事故
第8章 事故の前兆を感じ取る能力
第9章 危険に対する健全な恐怖
第10章 あまりにも人間的な事故
第11章 少しずつ安全マージンを削る人たち
第12章 最悪の事故を食い止める人間

 

マシンが反乱を起こす条件

最悪の事態を招く要因として以下の4つが挙げられます。

  1. 極めて多くの人がマシンの言うなりになり、そのマシンが正常に作動という前提でのみ生命が保証されるような状況に立っていること。
  2. こうした技術の抱える問題は極めて深刻で、良好な条件下でさえ次第に表面に現れ始めること。
  3. 現場担当者から提出された問題報告書に対して管理責任者が適切な処理をしていないこと。
  4. 地震や嵐といった自然の力が到来して、見せかけの安全性をぶち壊してしまうこと。

 

最悪の事故を防ぐために

・リーダーに、自分の決定に責任を持たせる

例えば、「パイロットが要求すれば、飛行命令を下す監理者はコックピットに同乗して空港上空を旋回しなければならない」と定めることにより、悪天候や視界不良の状況下での無謀な飛行命令を減らすことができる。

・事故の原因は企画・設計の段階で生じる

文筆家は九死に一生を得た話を好むが、最悪の事態の回避を、オペレータや操縦者に委ねるのは見当違いである。また、制御法や設備を標準化することは安全性の向上に大きく貢献する。

・常にもう一つの案を用意しておく

いかなる力を持ってしても、あらゆるものを完璧にコントロールし続けるとこはできない。事前に脱出方法を考えておかない限り、予測のつかない状況には足を踏み入れてはいけない。

・長時間のうちには確率の低い事故も起きる

確率が低いということは、起こり得ないということを意味するのではなく、起こるまでに時間がかかるということを意味しているのである。

・最後の最後まで諦めない

破滅寸前に追い込まれた時は、痛みには目をつぶって捨て身の方法を試してみるべきである。凍てつく海で2時間生き続けた事例や60m以上の高度から落下して助かった事例はいくつもある。生存への執着心が大きく作用するのである。

・情報を封印するなかれ

組織はトラブルの元になりそうな問題点は隠蔽するものである。

 

まとめ

現代では、人々は巨大システムに大きく依存するとこで快適で便利な生活を享受しているので、マシンとうまく付き合っていくとこは必須となっています。過去の事故についての第三者の立場からの分析は、数々の事例に共通した要因を見出せるということ、そしてそれは私たちに有用な行動指針を与えてくれるということがわかりました。

‘古典的’自己啓発本:『知的生活の方法』

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『知的生活の方法』講談社現代新書

著者:渡部昇一

 

知的生活の方法を伝授

今年4月に亡くなった英語学者の著者が知的生活の方法、とりわけ読書を中心とした生活の方法について、自身の体験をもとに様々な考察を行います。

 

本書の概要

1 自分をごまかさない精神

ごまかしたりズルをしたり、そこまでいかなくてもよく分からないのにわかったふりをすることは上達を妨げます。「知的正直(intellectual honesty)」が進歩には不可欠となります。著者は高校時代に漱石の『草枕』を読んだ時には面白さを感じられませんでしたが、大学三年の夏に再度漱石を読んでみると心底面白いと感じたそうで、その時の感覚を「知的オルガスムス」と表現します。その後、米文学『マジョリー・モーニングスター』を読んだ時にも同様の体験をしたと語ります。本を読んだ時、知的オルガスムスを感じない場合にはその不全感をごまかさず、自分に忠実であるよう心がけているそうです。

2 古典をつくる

古典は、国民の間での時間をかけた繰り返しの中で忘れ去られることなく読まれたり上演されたりし続けたものです。これと同様のプロセスを経て、「私の古典」というべきものが成立します。すなわち、なんども同じ本を読んでいく中で、それに繰り返しに耐える本や作者に巡り会えば、それは自分だけの古典と言えるということです。ちなみに著者の古典は『半七捕物帳』だそうです。

3 本を買う意味

身銭を切って本を買うことは判断力を確実に向上させる良い方法になります。また、いつか読んだ本をふと読みたくなった時にその本が手元にあるということはとても大切なことです。この繰り返し読むという行為が記憶の定着を助けます。

著者は読んだ本の興味を引いたことをカードに書き留めるカード・システムを推奨しません。カードに書き留めることには非常な精神的努力とエネルギーと時間が必要で、さらにはカードを取ることが億劫で読書ができなくなるなどの危険があるからです。代わりに、本を買って線を引いたり書き込んだりすることを勧めます。

4 知的空間と情報整理

受動的知的生活、すなわち本を読み、考え、友人と話し合う生活においてはそれほど多くの蔵書は必要ではありません。しかし、能動的知的生活、すなわち半や論文を書いたりマスメディアに意見を発表したりする生活には多くの蔵書とそれを保管する空間が必要不可欠です。蔵書の量が能動的生活の生産の速度を決定づけるのです。

著者は都心の狭い住空間の中で蔵書を保する空間をやりくりする方法を紹介します。能動的知的生活に理想的な住居の設計図も提案されています。

5 知的生活と時間

誰にも等しく与えられた24時間の中で知的生活を送るためには時間を無駄にすることに無頓着ではいけません。時間を無駄にするという意味で、避けるべきは友達と一晩飲み明かすとかヘボ将棋を指すとかいうことよりもむしろ、完璧を求めるあまり雄大な計画の細部に際限なく拘泥することやギリシャ語やラテン語を習得しようと膨大な時間とエネルギーを費やすことの方が大いに危険だと主張します。

カントやゲーテは夜明け前に起床し、午前から知的生活を送っていたといいます。著者も大学時代は彼らに倣って朝型の生活を送っていたそうですが、自分が低血圧で夜型の生活に向いていると思ってからは夜型の生活にシフトしたそうです。

6 知的生活の形而下学

専門外の人たちとの交際を楽しむこと、栄養面や量の面で適切な食事をとること、散歩で気分転換を図ること、お互いの知的生活を尊重しあえるような配偶者を見つけることなど、形而下学的な事柄に対するアドバイスを提供します。

 

まとめ

外山滋比古氏の「思考の整理学」と似たスタイルで読者に知的生活のためのヒント・アドバイスを与えてくれます。当然ながら両者の言葉に共通することがありますが、相違点もあり、例えば渡部氏は本書で自分が夜型の生活を送っていることを告白しますが、外山氏は朝食前に仕事に取り掛かるという朝型の生活を20年以上続けていると語っていました。

ペンは剣よりも強し:『世界を変えた10冊の本』

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『世界を変えた10冊の本』文春文庫

著者:池上彰

 

池上先生が選ぶ、世界を変えた本

1冊の本は、そしてそこに記された思想は、時に何万人もの人々に影響を与え、世界の歴史を動かすことがあります。本書では池上彰氏が「世界を変えた」と思う10冊の本を厳選し紹介しています。

 

本書の概要

第1章 アンネの日記

初版1947年 アンネフランク

アンネの日記』を読んだ人たちは、ユダヤ人であることが理由で未来を絶たれた少女アンネの運命に涙します。イスラエルが今も存続し、中東に確固たる地歩を築いているのは、『アンネの日記』という存在があるからだ、と著者は考えます。

アンネの父オットーは強制収容所から生還し、日記の中に描写される母親との葛藤や性的表現などを削除した版を作成し、1947年に出版しました。これが各国語に翻訳されて正解中に広がりました。その後1986年になってアンネのオリジナルの日記が出版されました。

オリジナルの日記には、当時の同級生に関する強烈な描写や母親に対する強い反抗心、性の目覚め、同じ部屋で隠れていたペーターへの恋心、そして一人のユダヤ人としての自覚などが記され、可憐でか弱い少女ではなく、強きユダヤ人女性としてのアンネ・フランクの姿が浮かび上がります。

第2章 聖書

全世界に22億人以上の信者を持つキリスト教聖典『聖書』は世界で最も読まれた本として知られます。『聖書』にはヘブライ語で書かれた『旧約聖書』とギリシャ語で書かれた『新約聖書』の2種類があり、前者はキリスト教ユダヤ教聖典、後者がキリスト教聖典です。

旧約聖書』は全39巻からなり4部に大別されます。天地創造やアダムとイヴの物語に代表される「創世記」を含む通称「モーセ五書」と文学書、歴史書、それに預言書です。

新約聖書』は全27巻からなり、5部に大別されます。「マタイによる福音書」など4つの福音書、「使徒言行録」、「パウロの手紙」、公開書簡、それに「ヨハネの目次録」です。新約聖書にはマリアの処女懐胎やイエスが行なった数々の奇跡、イエスの復活など一般の常識が通用しないことが多数出てきます。

第3章 コーラン

預言者とは神が人々を救うために神の言葉を伝えた人物であり、イスラーム教徒にとって『旧約聖書』に登場するモーセも「ノアの箱舟」のノアもイエスも皆預言者ですが、ムハンマドが最後の預言者であり、神が預言者ムハンマドに語りかけた言葉をそのまま記した『コーラン』の教えを守れば天国にいけると信じています。『コーラン』は神の言葉を天使ガブリエルがアラビア語に翻訳しムハンマドに聞かせた言葉を書物としてまとめたものですから、神に選ばれた言葉であるアラビア語で読むべきであり、アラビア語以外の言葉に訳すことはできないとされています。

コーラン』には、1日5回の礼拝や偶像崇拝の禁止、年に1回1ヶ月間の断食、豚肉や酒の摂取の禁止などイスラーム教徒が守るべき決まりが記されています。

第4章 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

1904,1905年発表 マックス・ウェーバー

社会科学の分野では『プロ倫』と称される本書の内容は2部構成になっていて、第1章の「問題提起」では、当時のヨーロッパの資本主義経済の最先端をリードする人たちにプロテスタントが多いことを指摘します。その上で第2章の「禁欲的プロテスタンティズムの職業倫理」では、厳しい禁欲を守っていたプロテスタントこそが、職業倫理を守ることで、資本主義経済で成功していった道筋を分析しています。

プロテスタントの人々は、カルヴァンが説いた「予定説」に従って、自らの「救いの確証」を得るために怠惰な生活を捨て禁欲的に仕事に励みます。このプロテスタンティズムの倫理が、「正当な利潤を組織的かつ合理的に、職業として追い求めようとする心構え」という資本主義の精神と合致して、資本主義的な企業を推進する原動力として働いたと分析しています。

第5章 資本論

初版1867年 カール・マルクス

マルクスは資本主義がなぜ非人間的な経済体制になるのかを説き、マルクスの理論はロシア革命を引き起こし、社会主義体制を採用する国が増えました。

マルクスは『資本論』の中で以下のように論じます。資本主義が発展すると、大規模な工場が作られ、労働者たちは組織的な行動を通じて鍛えられ団結し、資本家を打倒するだけの能力が鍛えらます。その結果、労働者たちは革命を起こして資本主義は崩壊に至ります。

マルクスが描き出した資本主義の最期はここまでで、資本主義が崩壊した後、経済はどうなるかについての言及はありません。そしてマルクスが予想した資本主義の最期は、リーマン・ショック後の日本の状況とよく似ています。資本主義の欠陥を知る上で『資本論』は役に立ちます。

第6章 イスラーム原理主義の「道しるべ」

初版1964年 サイイド・クトゥブ

クトゥブは、イスラームこそが人類の健全な発展と進歩に欠かせない価値観を保有していて、その理想が失われてしまったために世界は堕落していると主張し、イスラームの理想に帰りイスラームの原初を思い起こすことが必要だと論じます。イスラーム社会以外の社会はもちろんのこと、今のイスラーム社会も「無明社会」であるとし、人間の主権を神に預け、「皆がアッラーの教えだけに従ってアッラーにのみ服従する」社会を目指します。

クトゥブの思想はオサマ・ビンラディンをはじめとする過激派の教本となり、現在も世界を動かし続けています。

第7章 沈黙の春

初版1962年 レイチェル・カーソン

当時、農薬として使用されていた化学物質、特にDDTの危険性を訴えました。自然にばらまかれた化学物質は食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積され、動物や人間にとって脅威となること示し、弱い効き目の農薬を必要最低限使い方法を考えるべきであると提案します。

沈黙の春』の出版以降、DDTの被害が世界中に広がっていることが分かり、出版の10年後にあたる1972年にアメリカ政府はDDTの使用を禁止しました。

第8章 種の起源

初版1859年 チャールズ・ダーウィン

ダーウィンイギリス海軍の測量船ビーグル号で訪れたガラパゴス諸島での5週間の滞在中に行った多様な生物の観察を元に、生物は自然淘汰によって進化したという仮説を導き出しました。『旧約聖書』は、生物は神によって創造されたものとしているので、ダーウィンの理論は激しい論争を引き起こしました。

20世紀になり、遺伝子の存在が明らかになるにつれ、ダーウィン理論の正しさが広く認められるようになりました。

第9章 雇用、利子、貨幣の一般理論

初版1936年 ジョン・M・ケインズ

1929年の世界恐慌当時、イギリス政府は景気が悪化して税収が減ったのに合わせて支出を減らす均衡財政政策を維持しました。ケインズは当時の主流派の経済学の「自由放任が正しい」という思想を時代遅れだとして批判し、不況時には政府による積極的な財政政策が必要であると主張しました。

経済効果が投資に対する掛け算の和として表されるという「乗数効果」や、高所得者に高い税率をかけて消費性向を高める「累進課税制度」、中央銀行金利を上げ下げすることで景気対策を行うことなど、現在でも用いられる概念をケインズは確立しました。

第10章 資本主義と自由

初版1962年 ミルトン・フリードマン

フリードマンは政府の仕事を極力少なくし、個人の自由に最大の価値を見出す自由市場主義(リバタリアニズム)を打ちたてました。通貨量を増減させることで景気対策を行うことを提言し、各国の通貨の交換比率を市場原理に任せる「変動相場制」を提唱しました。このほか、学校選択の自由を認め市場原理によって教育の質の向上を図る「教育バウチャー」制度を提案したり、高所得へのモチベーションを損なう累進課税ではなく一律税率を主張したりと、経済学の常識を覆す理論を打ち立てた功績が認められ、1976年にノーベル経済学賞を受賞しました。

 

まとめ

宗教に関わる本が4冊、経済に関する本が4冊、科学に関する本が2冊紹介されました。これら10冊の本はその分野学ぶには読んでいることが前提とされるような本であるようなので、その多くは難解なものであると思われるものの、解説書などを参考にしながら読んでみたいと思いました。

日本の宇宙探査が危ない:『はやぶさ2の真実』

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出典:JAXA

はやぶさ2の真実』講談社現代新書

著者:松浦晋也

 

日本の宇宙探査の現状を知る

2010年6月13日、7年以上にわたる宇宙の旅を終え帰還を果たしたはやぶさは日本中を熱狂させました。そのはやぶさの後継機にあたるはやぶさ2の計画は何度も計画中止の危機に瀕しながらもそれを乗り越え、現在も目的の小惑星へ向け宇宙空間を航行中です。本書では初代はやぶさはやぶさ2を題材として取り上げながら課題が山積する日本に宇宙探査の現状を紹介します。

 

本書の概要

第1章 大いなる賭けであった初代はやぶさ

アメリカの太陽系探査は、豊富な資金と高い技術力を背景に、手堅く一歩一歩計画的に進んでいくとう特徴を持ちます。サンプルリターンを行うまでに①目的の星の横を通り過ぎるだけの探査機②目的の星を周回して長期観測を行う探査機③表面への着陸を行う探査機④サンプルリターンを行う探査機、というように段階的に計画を進めていくというスタイルです。

日本はアメリカのような豊富な予算を獲得することができないため、はやぶさは上の②〜④を一気に実施するという、“虎穴にいらずんば虎子を得ず”ということができるような計画でした。

はやぶさのために、弾丸を打ち込み小惑星からサンプルを採取するサンプラホーン、サンプルを地球に送り届ける地球帰還カプセル、燃費が良いイオンエンジン、高精度の航行を可能にする光学航法の4つの技術が新たに開発されました。

はやぶさは多くの困難に遭遇しました。第一の困難は往路で太陽フレアを浴びたことによる太陽電池の劣化、第二、第三の困難は姿勢を制御するリアクションホイールの2度の故障、第四の打撃はイトカワ着陸後の燃料の漏出による推進装置の故障と45日間の通信の途絶、第五の打撃は内臓リチウムイオンバッテリーの故障、第六の打撃は復路での4基のイオンエンジンのうち3基の故障でした。これらすべての困難を乗り越え、はやぶさは全ての任務を遂行し、見事地球にイトカワのサンプルを持ち帰ることに成功しました。

第2章 宇宙大航海時代

円軌道から瞬間的な加速によって楕円軌道へ移り、2度目の瞬間的な加速によって別の円軌道に移る方法はホーマン遷移と呼ばれ、最も少ないエネルギーで軌道を移ることができることが証明されています。

はやぶさの場合、燃費が良いが推進力が小さいイオンエンジンで航行するので、瞬間的な加速ができないのでホーマン遷移は行えません。はやぶさイオンエンジンによる長時間加速とスイングバイを巧みに組み合わせたEDVEGAという軌道を使ってイトカワに向かいました。

第3章 宇宙創成の謎に迫る

アメリカやロシア、中国は月からのサンプルリターンを実施していて、火星からのサンプルリターンの構想も持っています。

大きな星の場合、星の生成の過程で構成要素の微惑星は一度熔解して表面から冷えているため、太陽系創生の頃の痕跡が残っていません。一方、小惑星の場合、熔解が起こらないため、太陽系創生の頃の痕跡を残しています。

小惑星は構成する物質により分類できます。石や岩を主体とするS型小惑星、炭素を含むC型小惑星、ニッケルや鉄を主体とするM型小惑星、有機物が含まれ、かつ水が氷の形で存在している可能性があるP型小惑星、P型小惑星と似ているが、表面が一層暗くて光を反射しにくいD型小惑星などがあり、初代はやぶさがサンプルリターンしたイトカワはS型に分類されます。

初代はやぶさの後継機であるはやぶさ2は、はやぶさの通信途絶によって開発が急がれたため、「はやぶさの同型機を、素早く作り上げて打ち上げる」という制限がつけられました。P型やD型の小惑星はやぶさ同型機の能力で往復可能な範囲内に存在しないため、1999JU3というC型小惑星に決まりました。

第4章 これがはやぶさ2

初代はやぶさはやぶさ2を比較しつつ設計の説明がなされます。

打ち上げに使用するロケットがM-VロケットからH-ⅡAロケットに変わったことで、はやぶさ2は初代はやぶさより大きくなり、重量は90kg大きくなりました。

初代はやぶさは通信に使用する電波周波数が8〜12GHzのXバンドでしたが、はやぶさ2ではXバンドト27〜40GHzのKaバンドの2つに変更されたことで、高利得アンテナの数が1基から2基に変更されました。

はやぶさ2は、重量と容積の制限から初代はやぶさには搭載できなかった故障に備えるためのバックアップ系統が充実しています。

観測機器の強化も図られています。小惑星と物体の衝突を観測することと宇宙風化を受けていなサンプルを採取することを目的として、小惑星の表面に金属の砲弾を打ち込み、小さなクレーターを作って内部の物質を露出させる「衝突装置」という装置が搭載されました。

第5章 地上の長く曲がりくねった道

予算の縮小や、アメリカとの競争、JAXA内部からの反対などにより、はやぶさ2は何度も計画中止の危機に瀕しました。それでも川口淳一郎教授を中心とする粘り強い努力の結果、はやぶさ2計画は予算のやりくりになんとか成功し、計画の実行にこぎつけました。

第6章 未知の空間へ、未踏の星へ−日本の現状と宇宙探査の未来

継続的な宇宙探査のためには、はやぶさ2の次の計画を今から進めていく必要があります。

現在、ソーラー電力セイルという新しい宇宙航行技術を用いて、木星と同じ軌道に存在するトロヤ群小惑星からのサンプルリターンが検討されています。

ソーラー電力セイルとは、薄膜太陽電池を張ったソーラーセイルを宇宙空間で広げ、太陽光の圧力から推進力を得ながら発電した電力でイオンエンジンを駆動する方法で、2010年に打ち上げられたIKAROSの実験成果に基づいています。

宇宙開発を着実に進めるアメリカは、近い将来に国際協力による月以遠の大規模な有人探査計画を打ち出すことが予想されます。その時、日本側で宇宙探査の準備を整えておくためにも、次期の宇宙基本計画には、宇宙科学とは別個に宇宙探査できちんと項目を立てて予算措置を講じることを明言しておく必要があります。

 

まとめ

初代はやぶさの奇跡的な生還の物語と、現在宇宙を航行中のはやぶさの後継機はやぶさ2の概要の紹介に加え、はやぶさ2計画が直面した計画中止の危機についても詳しく言及されていています。日本が技術立国として先進するためにも国際的な役割を果たしていくためにも宇宙探査を継続して理学的・工学的成果を得続けることが重要であり、そのためには宇宙探査に興味を持ち続け応援するという国民の後押しが必要であることがわかりました。

我々は失敗作である:『人体 失敗の進化史』

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『人体 失敗の進化史』光文社新書

著者:遠藤秀紀

 

人体の設計図はその場凌ぎの設計変更の塊である

獣医学博士の著者が、心臓や骨、耳、臍、四肢などといった人体の各部分がどのような来歴を持つのかを紹介しながら、進化とはその場凌ぎの突飛な設計変更の数億年規模での蓄積であることを示します。現代人が悩まされる腰痛や肩こりの進化史的な原因も説明されます。筆者の語りがとても上手で、生物の進化を追いかける数億年の時間を駆け巡る旅へと読者を引き込んでくれるようです。

 

本書の概要

第1章 身体の設計図

太鼓の哺乳類は腕を胴体に接続する骨として肩甲骨と烏口骨を持っていましたが、鳥類は烏口骨を発達させ肩甲骨を退化させたのに対し、哺乳類は肩甲骨を発達させ烏口骨を消滅させました。

心臓の原型はナメクジウオという原始生物まで遡り、血管壁の広い範囲に心臓の筋肉の細胞がバラバラに分布するという形であり、さらに遡ればホヤの体内でパクパクと動いて体液を行き先を定めずに循環させる細胞でした。

機械の設計では人間の目的に合わせて白紙から設計されるのに対して、生物は祖先の設計図を借りてきて変更を加えるという形でしか設計を行えないのです。

第2章 設計変更の繰り返し

最後に出来上がる形の役割と、その形を生み出した時点での機能が明確に異なっている場合、全適応と呼びます。

身体の支持、運動の起点、外界からの防御といった役割を果たす骨は、原始的な魚が生み出した、海中でリン酸カルシウムを体内に蓄積するシステムが原型となっています。

槌・砧・鐙からなる耳小骨は、鼓膜の振動をテコの原理で増幅し内耳に伝えますが、これは顎関節の一部を元として作られました。また、顎は鰓を元に作られたと考えられています。

陸上での移動に不可欠な手足は、海中での自由な移動を目的とした肉厚の鰓が発達したものです。

臍は胎生の動物だけでなく鳥類や爬虫類にもあります。臍はもともと卵の中で卵黄と胎児を結びつけるものでしたが、卵生から胎生に移行した生物が、胎児と母親の胎盤を結びつけるものに改良しました。

鰓呼吸をしていた魚が浮き袋を応用して肺を作り出し、それに伴って肺に全ての血流を送り込むために心臓が右心と左心を持つ構造に変化しました。

鳥は空を飛ぶために、肩から先の骨を伸ばし、皮膚の一部を羽毛に変え、骨の内部を空洞化し、ヒトの肋骨下から尻までの骨に当たる骨を全て一つにまとめ軽量化を測りました。

第3章 前代未聞の改造品

ヒトは二足歩行のために、足の平にアーチ構造を持たせて二箇所で体重を支え、強靭なアキレス腱を用意して地面を強く蹴ります。重力がかかる方向が90度変わった内臓を支えるために骨盤は幅広くなり、また四足歩行の時とは動かし方が大きく変わった後脚を動かすために尻が大きく発達しました。

ヒトの指は親指と他の4本の指が向かい合っている、いわゆる母指対向性を持っており、これが驚異的に器用な手を実現しました。

ヒトの脳の桁外れの大きさは道具の使用や製作といった手先の作業によって加速度的に実現されました。

第4章 行き詰まった失敗作

ヒトは上体を垂直にして二足歩行を始めたために、心臓に大きな負担をかけることになりました。血管が上下に走るため、手足の先の動脈では高血圧、頭では低血圧になり、様々な姿勢で様々な動作を滞りなく行うために心臓と血管を制御するシステムが必要になります。冷え性の原因はここにあります。

水平に保たれていた背骨を垂直に立てたために、椎間板が圧力で押し出され神経を刺激する椎間板ヘルニアも二足歩行の弊害です。

 

最大の失敗作

ヒトに知性を与え、高度な文明を築いくに至らしめたのは脳で、他の動物と比べた時の我々のアイデンティティは脳にあると言えるでしょう。しかし、筆者は、自身を破滅へ導きうる核開発や地球環境の不可逆的な破壊を指摘した上で、逆説的に、次のように語ります。

 

たかが500万年で、ここまで自分たちが暮らす土台を揺るがせた“乱暴者”は、やはりヒト科ただ一群である。何千万年、何億年と生き続ける生物群がいる中で、人類が短期間に見せた賢いが故の愚かさは、このグループが動物としては明らかな失敗作であることを意味していると言えるだろう。

ヒト科全体を批判するのがためらわれるとしても、明らかにホモ・サピエンスは成功したとは思われない。この二足歩行の動物は、どちらかといえば、化け物の類だ。50キロの身体に1400ccの脳を繋げてしまった悲しいモンスターなのである。

 

 

そして筆者はヒトのこれからの設計変更の未来について、次の設計変更がこれ以上なされないうちに、人類は終焉を迎えるという哀しい未来予測を立てます。

 

まとめ

ヒトの設計の最大の失敗は脳であるという筆者の指摘に驚きましたが、深く納得させられました。終焉へと突き進む人類が繁栄の未来へと軌道を修正するために残されたできることは、設計図の変更ではなく、人類自身が自らの行動を変えることであるようです。